あの世は味わい深い。時は飛び、とばっちりを食わせる。肉体は握りつぶされ、日常は苦々しいものとして認識される。ひとは引き止められ、過去を顧みさせられる。
1文目は「あ」、2文目は「と」、3文目は「に」、最後は「ひ」と「か」で頭韻を踏んでいる。このような文が、3つの作品全編を通して貫き通される。こんな小説、というか文章はこれまで読んだことがない。原文は当たり前だが英語なので、これを日本語で同じく頭韻を踏んだ形で再現するのは至難の業だっただろう。訳者の田村義進氏の苦労は察するに余りある。
頭韻を踏むということで生まれた長所は、常識外れの文体の小説を生み出すということだけに留まらない。とにかく、読みやすいのだ。内容が頭に入らないくらいの猛烈なスピードで読み進んでしまう。韻文に限らず、文学や詩の歴史の中で生き残ってきた様々な方法論や形式には、やはりそれなりの理由があるということだ。
これを踏まえて最近発表された日本のラップを聞いてみると、この韻律(要はライミングだ)の部分が非常に貧弱。トリッキーなフロウやトピックのラップは多く存在するが、韻律が弱いためどこか締まらない印象を受ける。逆に韻律が固いのは、95~96年、「さんぴんキャンプ」が開催された頃の作品だ。YOU THE ROCK AND DJ BEN『TIGHT BUT FAT』なんかは、買った当時よりも今のほうが遥かにフレッシュに聞こえる。一部のラップ愛好家が狂信的ともいえる姿勢でライミングを重視する理由も、エルロイのこの作品を読んでみて、初めて理解できた気がする。
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