2015年10月8日木曜日

ハスラー達の新たなロール・モデルとして - 『アメリカン・ギャングスター』

公開当時、「Jay-Zが本作を観て感銘を受けた」ということを聞いて観に行ったが、良く出来た作品という以上の印象は無かった。が、今回観直してみて、その理由がようやく分かった。なぜタイトルに「アメリカン」(黒人の、ではない)という形容詞がつくのかも。

これは要するに、「アメリカン・ドリーム」の話なのだ。ノース・カロライナの田舎に育った黒人の青年が大物ギャング(バンピー・ジョンソン)の下で働き、彼の死後独立し、彼より前から麻薬密輸に手を染めていたイタリアン・マフィアや汚職にまみれた警察を出し抜き、巨万の富と権力を得るという。フランク・ルーカスは実在の人物であり、『スカーフェイス』のトニー・モンタナのようなカリスマ性はなく、ストーリーはやや地味だ。がしかし、彼は実際に成功を収め、その後に続く野心的なアフリカ系アメリカ人のハスラーにとって(良くも悪くも)ロール・モデルとなったのだ。この映画にインスパイアされてアルバムまで作ったJay-Zだけでなく、コモン、T.I.、RZAといった錚々たるメンツがこの映画に出演しているのは、そういった理由からに違いない。

別の側面から見てみると、本作は映像作家としてのリドリー・スコットの才能が(これまた地味にではあるが)遺憾なく発揮された映画でもある。派手なトリップシーンなどはないが、細かいカット割りで観るものを釘づけにする終盤の銃撃戦は見事な出来だ。またニクソンが始め、現在まで続く長い「麻薬戦争」の初期の映像資料として見ることも出来るかもしれない。


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