『メキシコ麻薬戦争: アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱』という本がある。イギリスのジャーナリスト、ヨアン・グリロが2011年に発表したもので、アメリカ~メキシコ国境間で続けられている「麻薬戦争」の歴史や、「ナルコ」と呼ばれる麻薬密売組織(カルテル)の内幕についての詳細な記録によって構成されている。本書の敢行は2011年で、翻訳され日本で発売されるまで3年の歳月を要したが、「麻薬戦争」は収まるどころか、一段と過激さを増しているように思う。
そこから遡ることさらに11年、S・ソダーバーグが『トラフィック』を発表したのは2000年だ。時はまだ20世紀。しかしこの時点で既に、『メキシコ麻薬戦争~』で語られた事柄が映画の重要な要素となっているのは、大変興味深い。メキシコの警察・軍内部での腐敗、カルテルから公権力への圧力、証人や要人の暗殺、多様化する密輸方法、政府間での連携不足。
映画のラスト近く、DEA(アメリカ麻薬取締局)側の証人が裁判へ向かう前、捜査官に向かって吐き捨てるように言う。曰く、「オレが持ってたヤクが世間に出回って何が悪い?何人かがハイになってお前の相棒も生きてる」「お前ら(DEA)がやってることは無意味だぜ、むなしいだけ」「最悪なのはムダと知りつつ捕まえてる点だ、道化ってとこだぜ」「勢力の拡大を狙う組織の密告でオレを捕まえた」「(勢力拡大を狙う)麻薬組織の手先と同じだぜ、バカめ」。これはまるで、現在の「麻薬戦争」の状況を予言しているかのようだ。15年経っても変わらない現実、好転する時はやってくるのか。
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